腰痛・腰部脊柱管狭窄症や脳梗塞後遺症、パーキンソン病などによる腰下肢痛や関節拘縮、歩行障害ではリハビリが困難なことがよくあります。一般的なリハビリ施設では、鎮痛剤の内服や注射などの薬物治療、サポーターやコルセットなどの装具治療、電気やマッサージなどの物理療法などが行われます。当院が重視するリハビリテーションで主軸となるのは「理学療法士による運動訓練」です。理学療法士の視点から、それぞれの病態、アプローチすべき神経・筋腱の障害部位を解析し、姿勢矯正、歩行訓練、関節・筋肉群へのアプローチにより、四肢の疼痛や腫脹、可動域制限を改善させるものです。当院では、この理学療法士による運動手技療法を、直接患者様に触れることで皮膚を通して神経・筋腱群への細かい施術を行う観点から、「手あて」と称して最重要治療と位置付けています。その理由として、理学療法士による運動手技療法は、内服や注射などの薬物療法と比較して、副作用のリスクが極めて低いことが挙げられます。最新の痛み止めのお薬は、従来の痛み止めと比較して痛みを抑える効果は優れていますが、眠けやふらつき、嘔気や認知機能障害などの副作用が一定の確率で生じます。とくに高齢者ではふらつきを生じた場合は転倒・骨折につながることもあり、看過できない副作用です。理学療法士による運動手技療法ではそのような副作用は生じることはまずないですし、むしろ高齢者の転倒や骨折に対する予防効果が優れていることが、これまでの研究で高いエビデンスとして報告されています。欠点として2~3回の施術では改善が見込めないことが挙げられます。最低でも週1~2回程度の施術を2~3ヶ月間は行うことが推奨されます。
理学療法士の徒手療法では、さまざまな補助機器を併用して使用します。「プロテック」は体幹部を専用パッドで固定し骨盤部を重力で吊り下げて腰椎の牽引を行う治療機器です。腰椎椎間板や椎間関節の負担を軽減し、仙腸関節に無重力下で適度なマイクロモーションを与えることで、腰部脊柱管狭窄症や腰椎椎間板ヘルニアなどの腰下肢痛を軽減します(図1)。「レッドコード」は体幹や四肢を専用バンドで固定して持ち上げて、体の重みを解消しながら体幹・四肢の筋力や可動域訓練を効率的に行うことができます(図2)。「トランクソリューション」は体幹に装着するリハビリ機器で、体幹伸展かつ骨盤前傾を促すことで、腹横筋などの腰痛改善に重要な役割を果たすインナーマッスルの活動性を効率的に上げることができます(図3)。「リコア」は腹部に巻いたバンドの空気圧力に対抗して患者さんが腹圧をかけるトレーニング機器で、腹圧で押し返す力を発揮することで、腹横筋の他に外腹斜筋・内腹斜筋・ 多裂筋・ 骨盤底筋群・横隔膜など腹部全体のインナーマッスルが有効に活性化し、いわゆるブレーシング効果が再現できます(図4)。「ロコボット」はボードの上に立って身体を前後左右に重心移動させながら、床上の専用ボールを移動させることで、転倒予防に必要なバランス能力を向上させるリハビリ機器です(図5)。これらのリハビリ機器はいずれも腹横筋、多裂筋などの腰痛改善に重要な役割を果たす体幹部ローカル筋の活性化に働いて腰痛改善やバランス能力向上が期待でき、当院では理学療法士の施術の補助として広く活用しています。
理学療法士による手技療法との併用で、当院で強く推奨しているのが東洋医学治療です。脳梗塞や腰部脊柱管狭窄症、変形性関節症などの痛みや拘縮には、多くの場合、東洋医学的に「瘀血(おけつ)」や「気(き)」の障害を生じています。瘀血とは局所の微小循環障害を指します。また長引く腰下肢痛や関節痛、歩行障害は、生体内エネルギー(これを気と呼びます)の枯渇を導き、それがさらに微小循環障害(瘀血)を悪化させるという悪循環ループを形成します。この悪のループを改善させるために当院が強くお勧めするのは漢方薬です。漢方薬は組織の筋緊張緩和、血流増加、温熱効果、腫脹改善効果などにより「瘀血」や「気の障害(生体エネルギー枯渇)」を修正し関節拘縮や痛みを改善します(漢方治療の詳しい解説はこちら)。理学療法士による運動手技療法に漢方治療を併用することにより、それぞれが相乗的に、かつ、より短期間で痛みや腫脹、関節拘縮の改善を実現することが可能となります。腰部脊柱管狭窄症、変形性関節症、脳梗塞後遺症などのリハビリテーションをどのように行ったらよいか迷っておられる方は、当院の東洋医学併用リハビリテーションを是非ともご体験いただきたいと思います。
図1 プロテック
図2 レッドコード
図3 トランクソリューション
図4 リコア
図5 ロコボット